工芸の街「金沢」で素地、塗り、蒔絵と一貫した制作活動を行っています。今回は、素地の中の「乾漆技法」について専門的な知識も交えてご紹介します。乾漆とは素材に木を使わず、型を作りそれに漆で麻布を一定の厚みになるまで貼り重ね、型から外して素地とする技法で自由な造形が可能で、軽くて丈夫なのが特徴です。興福寺の阿修羅像などの仏像の制作に用いられてきました。私達は、アクセサリーやぐい吞み、厨子などの制作にこの乾漆技法を用いています。

乾漆ぐい呑 乾漆片口
乾漆花器

乾漆ぐい吞 乾漆花器

普通の木地に下地をつける場合は、器物の内側、外側にそれぞれ一辺地付け、二辺地付け、三辺地付け、錆び付けという順に行い中塗り、上塗りと進みますが、乾漆の場合は器物の完成時の一番内側になる下地から行うので初めは普通とは逆の工程で進みます。

石膏型の接地面から工程がスタートします。
オレンジ色の所が素地となる部分で普通は木地ですが、乾漆の場合は麻布になります。

 乾漆工程
1.型作り   (石膏で器物の雄型を作ります)
2.錆び付け   (漆と砥の粉を混ぜ合わせた下地)
3.三辺地付け (漆と砥の粉と※地の粉(三辺地粉)を混ぜた下地)
4.二辺地付け (漆と米糊と地の粉(二辺地粉)を混ぜた下地)
5.一辺地付け (漆と米糊と地の粉(一辺地粉)を混ぜた下地)
※地の粉とは珪藻土を蒸し焼きにしたもので一・二・三辺地粉があり
一辺地粉が粗く二・三辺地粉とだんだん細かくなります
6.麻布貼り(細目) (漆と米糊を混ぜ合わせた、糊漆で麻布を貼る)
7.布目スリ (麻布の目を二辺地付けで埋める)
8.麻布貼り(厚目) (漆と米糊を混ぜ合わせた、糊漆で麻布を貼る)
9.布目スリ (麻布の目を二辺地付けで埋める)
 8.9を好みの厚みが出るまで行い、最後に6.7をもう一度行います
 この麻布の厚みが、普通の木地の部分に当たる所になります
10.一辺地付け
11.二辺地付け
12.三辺地付け
13.錆び付け
14.脱乾 (型から乾漆を外す)
15.中塗り (器物の内側、外側をそれぞれ中塗り漆で塗る)
16.中塗り (器物の内側、外側をそれぞれ中塗り漆で塗る)
17.上塗り (器物の内側、外側をそれぞれ上塗り漆で塗る)
下地、布貼り、布目スリ、塗り、それぞれの工程の乾燥後に
必ず研ぎを行ってから次の工程に入ります。

このように、膨大な工程数でとても手間がかかりますが、乾漆は木地では作れない形を作りだすことができ、とてもおもしろいです。

2017年から漆の木を育てています。以前から漆の木を植えるのがひとつの夢でした。
日本産漆が少ないから守りたいとか、自分たちの使う全ての漆を育てたいとか、そんな大それたことではなく漆を扱う職人として植栽を通して漆のことをもっと知りたいと思いやんわりと勉強しております。漆の木は水はけが良く日当たりの良い場所が適していて、それほど条件は難しくないのですが、ご存じの通りかぶれるという難点がありあまり街中や民家付近には植えることが出来ません。 木工小屋を借りるときに大家さんにお願いしてみると快く所有する山に植えさせていただけることになりました。漆畑は山道を10分ほど歩いた山の中あります。


山道
漆畑 整備の様子


漆を採取できるまでに約10年かかり(この間草刈りは必須)約半年かけて一本の木に対して約200cの漆が採取出来ます。採取後、漆の木は伐採してしまいます。 私達の漆の木はもっと時間がかかりそうです。
これ以上畑を増やすと本職に影響がでたり、整備が大変すぎて楽しみではなくなるので、今のところ畑を増やすことは考えておりません。漆を扱うものとして経験してみたかったことで、家族総出で草刈りや整備を行う時間や漆の木の成長も楽しみの一つとして物づくりをしていきたいと思っています。2017年に10本程植えられる土地を借り、開拓して畑を作り苗を5本植え、翌年2018年には苗を6本植えました。そして2021年には、新たに土地を開拓して畑を作り苗を10本植えました。
始めの2年間に植えた漆は台風やシカの被害に合いほとんどの木が枯れかかりましたが、根元から切り新たに生えて来た芽を育て直しています。なので一番太い木でも根元でまだビール瓶程度の太さです。

漆畑に関する動画

youtube

山小屋

以前から独学で簡単な木地を制作していましたが、とても素人では作れない木地も多く行き詰まっていました。また、指物の職人も減少しているので本格的に学ぼうと思い、日本工芸会正会員の福嶋則夫先生の下で6年間にわたり指物と刳物の技術を習得し、2017年から木工作業場を構え木地の仕事を始めました。作業場は自宅から車で10分ほどの山の中にある小屋を借りました。2年間探し歩き理想の木工小屋に出会うことができました。


山小屋 木工部屋 


昔話に出てきそうな味のある土壁で元はたばこの葉を乾燥させるための建物だったそうです。自分たちで改装してほんの少し増築たことで快適に仕事ができるようになり、自分達の木地や木工(指物)の作品以外にも、漆芸家の木地や桐箱などさまざまなご要望も頂くようになりました。オーダーメイドでのご注文を承っているので、木地からご希望に沿ったものを制作できるのも私どもの強みだと思っています。